花びら、キラキラ


それは柔らかな日差しが暖かくて、
春の匂いが優しく包みこむ
そんな小春日和。





『ピンポーン―――』

庭の大きな桜の花弁がはらはらと散る中、まるで現世から隔離されたかのように静かな家にインターホンの音が響いた。
ゆったりと時間が流れる。

「はぁい!」

トタトタと可愛らしい足音が家の中から聞こえてくる。
幼く可愛らしいソプラノの声が高らかに響いた。
しばらくすると、足音が段々と玄関に近づいてくる。
そして、玄関の扉が開けられた。

「お待たせしました…っ、……あれ?」

勢い良く扉を開くと、そこに人の姿は見当たらなかった。
確かにインターホンは鳴ったのに、と不思議に思って小首を傾げる。

「ニャー」

と誰かいないのかと姿を探していると、足元からとても可愛らしい鳴き声が一つ。

「まぁ、可愛いお客さん。」

それは手触りの良さそうな毛並みをした黒猫さん。
櫛できちんと梳かしたような綺麗な毛並みで、誇り高い高貴な漆黒の色。
愛らしい瞳は、何処か遠くの深い海底を彷彿させる淡いエメラルドグリーン。
ふふふ…と笑って可愛いお客さんを御もてなしする少女。
2、3度背中を優しく撫でて喉を擽ってやると、心地良さそうに目を細めて再度「ニャー」と啼いた。

「それで、貴方は私に何の御用時なのかな?」

黒猫の首には赤色のリボンが結ばれおり、ちりんと鳴る鈴が一つつけられていた。
誰かがこの猫のご主人であることは確かだ。
猫ははらりはらりと舞い散る桜の薄紅色の愛らしい花弁に目を奪われ、掴みたいのか手を伸ばす。
そんな可愛らしい仕草に少女は幸せそうに笑う。

「貴方は桜が好きなの?」

優しい微笑を浮かべて、黒猫に聞く。
黒猫はまるで答えるように「ニャー」と啼いた。

「そう…。貴方も好きなのね。あの人も大好きなのよ。」

それは先程とは比べ物にならないくらい優しい、優しい笑み。
愛らしいものを思い浮かべるように幸せそうに笑う。

「貴方のお名前は何かしら?」

暖かい風が頬をすっと撫ぜて、少女の横を通り過ぎていく。
黒猫は「ニャー」と啼いて首を傾げた。

「本当に可愛い黒猫さん…。不思議な子ね。」

空を見上げると明るく照らすお陽さま。
スカートの裾を僅かに揺らす小さな悪戯風。
この世のものとは思えないほどの幸せな空間。



                            「 あ の 人 は 、 逝 き ま し た 」




不意に強い風が少女を襲った。
桜の花弁がばっと空に舞う。
黒猫は確かにそう告げた。
少女は一瞬、驚いたように目を丸くした後ふっと微笑んだ。
哀しい、儚い、切ない
そんな言葉がよく似合う、そんな微笑み。

「そう…」

遠くを見るような目で、空に舞った桜の花たちを眺めながら少女は呟いた。
あぁ、あたしはまた置いて行かれたんだ―――




暖かな小春日和。
少女は大きく欠伸をし、静かに桜を眺めた。



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