ありがとう 


陽が差し込んだあなたの横顔が好きだった。
満ちた月を、貴方と見るのが好きだった。
そして、
貴方を
想ってた。

私のたった一つの想いよ。
そして、私のたった一つの夢。


(どうか、貴方が――――――)









「ありがとう。」

優しい声音が大きな温もりになって胸をさらっていく。

「本当に君は不思議だね。」

心地よい貴方の声が私の耳朶を撫でる。
くすっと笑みをこぼす貴方。
窓から入り込んだ春の匂いのする柔らかな風が、貴方の綺麗な黒髪をさらさらと揺らす。
擽ったそうに瞼を閉じる貴方――。





ありがとう。
たくさんの
幸せを、
想いを、
安らぎを、
優しさを、
温もりを、
愛情を、

ありがとう―――。










「…人形に話しかけるなんて可笑しいかな?」

少し弱々しい貴方の笑顔。
私は話す術を持っていないから、貴方の言葉をただ聞くことしか出来ない。
それでも、この想いは確かなモノだよ。
全部貴方が私の中に作ったモノだよ。
だからね、もし出来るのならたくさんの感謝の気持ちを自分の口で伝えたい。
そして、一番最初に貴方の名前を呼びたいな。

「少し眠たくなってきたな…。小春日和のせいかな?」

貴方は誰もいない、汚れのない清潔な白いベットの中でまた笑う。
窓の外では、色鮮やかな花たちが風と一緒に踊っていて、
その周りを艶やかな蝶がひらりと舞う。

幸福な景色―――。

貴方はそれを確かめるように眺めて、愛でるように優しく微笑む。
そして、ゆっくりと瞼を下ろした。柔らかな表情を残して―――。



ねぇ、貴方のいなくなった世界は とても静かだよ。


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