不変な繋がり


15 決戦は部室にて








それぞれが過去と真実を手にする。
そして、
少年はペアリングの意味を初めて知るのだ。












「おら、立て。」

4時間。
クラスメイトから哀れみの視線で見られ、訳の分からない恐怖に駆られること4時間である。
それまで話しかけるどころか、全くといって大希に興味を見せていなかった冬樹がようやく動いた。
そこらにいる女子よりもよっぽど綺麗な顔立ちをした彼は、威圧的な目をしてそう言った。

「ふぇ…?た、立てって…。」

小動物のように身体をびくっと震わせた。

「部室に行くんじゃ。」

そう言うと、大希の返事など待たずにぐいっと腕を引っ張る。

「部室って……まさかッ!本当に入るんですか!?」

「当たり前やろ。つか、何で敬語やねん。」

「えーと……何ででしょう…。」

しばらく考えて首を傾げる。
その大らかさというか、マイペースさに冬樹は甚だ呆れたようにため息をついた。

「お前…案外ウチの部に向いとるで。」

変わり者の面子を思い浮かべて、冬樹は言った。

「ピヨー!!!」

冬樹の言葉に何処か傷ついたように、大希が泣きながら声を上げた。

「奇声出すなや!!!!!!!!!!!!」

冬樹の怒声が教室中に響き渡り、クラスメートが顔を青くする。

((((((見ちゃいけない))))))

全員が自分に火の粉が降りかからないように、大希から目を逸らす。
人間とは、所詮自分の身が可愛いものなのである。

「行くぞ。」

首根っこ…というか、着ていたパーカーのフードを思いっきり引っ張られ無理矢理立たされる大希。
教室のドアを出た時、廊下で一際人目を惹いている青年が一人…。

「迎えに来ました。」

やんわりと微笑む青年。

「啓斗か…。丁度エェ、こいつ引っ張ってくれ。」

「ふぇ…?」

突然現れた爽やかな笑みを浮かべる好青年に、大希は首を傾げる。

「引っ張るだなんて…。」

まるで捨て犬のように首根っこを掴まれている大希の姿に啓斗は苦笑した。

「申し訳ありません、お昼休みの時間を頂いてもかまいませんか?」

オロオロと瞳を忙しなく動かせている大希に、啓斗が目折り正しく言葉を掛ける。

(この人……いい人だっ!!!!!!!!!!!!)

それまでの酷い扱いに対し、初めて触れる優しさに感激したように頬を緩ませる。

「どうしました?あ、自己紹介がまだでしたね。初めまして、相模原 啓斗といいます。」

にっこりと効果音が付きそうなほどの笑顔。
女子が直視したら卒倒しそうなほどの笑顔だ。

「初めて人権が尊重されました!!!!」

啓斗が差し出した手に勢い良く飛びつき、感激したようにそう言う。
冬樹はというと呆れた視線を注ぐだけだった。

「やっぱお前、ウチの部に向いとるわ…。」











***








「おい〜っす!」

一方、犯罪研究部部室には残りの全員が集合していた。
丁度今しがたドアを開けた沙枝で最後である。

「あんた、ホント男ね。」

ソファーの上で胡坐をかいて雑誌を読んでいる響の姿に深くため息をつく。

「つか、今更?」

ケラケラと笑う。

「それもそうね。」

「あれ、啓斗は?」

広い部室内を一通り見渡して、いつも穏やかに微笑んでお茶を汲んでいる彼の姿が見当たらない。
柚葉はコクンと首を傾げる。

「ん?啓斗なら……彼を迎えにいったよ。」

パラっと本のページを捲り、蒼紫が言う。

「ボス、もしかして4時間サボり?」

暢気なその姿にもしかして…と顔を引き攣らせて沙枝が聞く。

「もしかしなくても。」

当然の如く返ってくる台詞に沙枝は深々とため息をついた。

「えー、いいな。」

一方で柚葉がのんびりと声をあげる。

「まぁ…ボスは勉強する必要ないもんね。」

必死に机に向かって勉強している人たちには悪いが、彼は今更勉強など皆無である。

「ボスがテストで満点じゃなかったことってないもんね〜。」

彼は最強が故にボスなのである。
それはもちろん一同納得済みのことだ。

「さ…、そろそろ彼がくるよ。」

パタンっと分厚い古書を閉じて、蒼紫は言った。
深く澄んでいる鳶色の瞳が見つめるのは、部室のドア―――。






「新入部員、連れて来たで。」




ほら、
ペアリングが僅かに揺れた。


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