14 運命の少年
物語の幕開けはふいに訪れる。
時に心を乱しながら
時に強さを得
時に真実を射て
時に運命に服し
時に彷徨う
それが前に進むということ―――
To.
瑞島 柚葉
From.
相模原 啓斗
Sub:蒼紫からの伝言です。
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新入部員の紹介をするそうなので、
お昼に部室に集合して下さい。
―――――END―――――
「新入部員…?」
点滅を繰り返す携帯電話を手に取ると、新着メールを告げるメッセージが書かれていた。
柚葉は小首を傾げてメールを見る。
「例の少年でしょ?」
2限目の授業は古典。
クラスの半分が空席で、出席している生徒のほとんどが熟睡している。
窓際で珍しく授業を受けている柚葉がぽつりと漏らした声に同じクラスの沙枝が後ろから言った。
「あ…拾ってくれた子」
沙枝の言葉を聞いてしばらく視線を宙へと彷徨わせた後、思い出したようにニコッと笑って言った。
「あー、そう…。」
沙枝は呆れた表情で苦笑する。
「今日はボス少し変だったよね〜」
突発で脈絡のない会話。
「そ?ボスの変化分かるの、響か柚葉くらいだって…。」
すでに慣れっこな沙枝は特に気にすることなく返事を返す。
「そうなの…?」
小動物のように目を丸くしてキョトンとする柚葉。
(あの変態が見たら、どんなに騒いだことやら…)
その愛らしい姿を眺めつつ、部活仲間兼友人の響を思い浮かべて苦笑した。
「そうだよ。」
沙枝がそう言うと、柚葉は窓の外に広がる青空に目をやった。
「少し怖いな…。」
澄み切った蒼い、青い空を眺めて言う。
普段とはかけ離れたその姿に沙枝は目を瞠った。
元々華奢な小さな身体がやけに弱弱しく感じた。
「何が?」
「ん…知りたいんだけど…知りたくない……。」
傍らに置いてあるホルマリン用のビンを抱えて言う。
「それでも…前に進まなきゃ。」
きゅっと手に力が篭る。
幼い少女は直向きな強さを得る。
「知らなきゃね…。」
古典の教科書なんか読んでる場合じゃない。
知らなきゃいけない事実はごまんとある。
かつての事件が意味することを知らなければ、
真実はいつまでたっても見えてこない。
「決戦は昼休みって訳ね…。」
沙枝は笑う。
やっと探していたものが見つかる。
かつての記憶が
かつての事件が
かつての想いが
かつての痛みが
やっと交差する。