不変な繋がり


12 哀れな少年








1年2組

「では、昼休みに。」

始業のベルが鳴って数分後、啓斗と冬樹は1年2組というプレートが下げられた教室の前で分かれた。
1年2組とは冬樹のクラスである。

「おぅ。」

啓斗の爽やかな笑顔に、冬樹はその容姿に似合わぬ言葉遣いで返事を返す。
そして、そのまま扉に手をかけ教室の中へと進んでいった。
その一歩は、紛れもなく忘れることのない始まりだった―――











しばらく時間を遡り、数分前―――。

「じゃぁHR始めるぞ〜!出欠確認!!」

始業のベルと同時に教室へと現れた大希のクラスの担任。
その担任に指示され、大希は教室のドアの前で大人しく自分が紹介されるのを待っていた。

「あー、その前にだ…島咲!!!」

一瞬忘れられてしまったのでは…と思ったが、ようやく担任に手招きされて、大希は教室の中へと足を踏み入れた。
緊張しつつも、担任が立つ教卓の前へと進む。

「ほれ、自己紹介。」

顎で早くやれと指図され、大希はこくっと頷いた。
そして、すでに打ち解けたクラスメートに目を向ける。

「えっと…、今日からお世話になります島咲 大k「ガラ…ッ」」

が、少しばかり声を大きくし何度も練習した自己紹介は、教室の後方から聞こえたドアの音によってかき消されてしまった。
当然、クラス全員の目がそちらの方へと向く。
しかし、全員の視線がそちらへ向かったかと思うと一瞬にして全員が目を逸らした。
何も知らない大希だけがキョトンとした顔で首を傾げる。

「なんじゃ…同じクラスかい。」

小さな声でその人は言った。
色素の薄い綺麗な顔立ちをした子。
小さな顔にバランスよく配置された各パーツがあまりにも整っていて、正面から見ると言葉を失う。
大希は突然現れたその存在に、口をポカンっと開けてただ目を向けていた。

「……女の子?」

沈黙に響いた大希の言葉。
その言葉に、クラスにいた全員が見る見るうちに蒼褪めていく。
その場にいた全員の願いはきっとただ1つであっただろう…。

((((((((今すぐココから逃げ出したい……!!!!))))))))

「…あ゛?」

ドスのきいた声が何処からともなく聞こえてきた。

「ふぇ…?今、何処からか…」

大希は怯えたように慌てて辺りをキョロキョロと見渡す。

((((((((や…やばい…っ!!!!))))))))

蒼褪めた生徒達は心を1つにし、そう思った。
一同は何かを悟り、全員が耳に手を当てた。

「誰に向かって女の子やて…?」

大希が先程入ってきた絶世の美少女(?)に目をやると、なにやら背後からとてつもなく冷気を感じた。
綺麗な顔がニコっと笑みを浮かべている。
大希は生まれて始めてみる綺麗な笑みに見惚れているだけで、幸か不幸か後ろから漂ってくる黒く冷たいモノにまったく気付いていない。

「――――っ、お前の目ぇは節穴かぁぁぁぁぁっ!?あぁ゛!?」

静寂を突き破る怒声に大希は肩を大きく震わせた。

「ふ…節穴??え……?じゃぁ、もしかして…男の子?」

「眼球取り出したろか。」

地を這うような怒声には明らかに100%の殺意が籠もっている。

「がっ……!」

がくがく震え、怯える大希だったが、それは周囲の人間も同じこと。

((((((((誰かこの地雷を撤去してください!!!))))))))

「あの…ホントすみません……!!!が、眼球は無理だけど……出来ることなら何でもしますっ!!!だから…」

大希の言葉に、まるで般若のような顔をしていた冬樹の表情がぴたりと止まった。
そして次に浮かんだのは正に悪魔の微笑み。
細められたアーモンド型の双眸からは不吉な予感がひしひしと伝わってくる。

「なんでも…なぁ。男に二言はないじゃろ?」

楽しそうに浮かべられた微笑に惑わされるように、大希はコクっと首を縦に振った。
その瞬間、冬樹の顔に極上の笑みが浮かべられた。
冷たかった空気がなくなり、まだ何も分かっていない大希は冬樹のその笑みにぱぁ…っと目をキラキラと輝かせた。

「入部決定。」

輝いていた目が点になる。

「はい…?」

大希は間抜けな面で首をかしげた。
目の前の美少年は今何と…。

「お前の部活じゃ。犯罪研究部。」

目には見えない鈍器で後頭部を殴打された大希の頭で星が散っている。
誰もが一様に目を見開き頬を引き攣らせていた。

「何でもするんじゃろ?島咲 大希。」

「…ちょっ、」

「反論は受け付けん。お前に選択肢はないんじゃ。」

大希の発言をばっさり切り捨て、冬樹は満足したのか自分の席へと戻っていった。
皆が顔を強張らせ哀れみの目を大希に向けている中、冬樹だけがいつもと寸分の狂いもない表情だった。


島咲 大希、16歳。悪魔の罠に落ちた憐れな少年―――。


inserted by FC2 system