不変な繋がり


09 再起不能






「ところで…沙枝、何見てるの?」

柚葉の目は真っ直ぐに沙枝の手元に向けられている。

「んーファッション雑誌なんじゃない?」

視線は雑誌に置いたまま、沙枝は抑揚のない声で答えた。

「なんじゃないって沙枝ちゃん…そのつもりで買ったんじゃないの?」

響は頬杖をついた状態で呆れたように言う。

「別にぃ〜他人の服装なんか興味ないし。ってかちゃんづけ・・・・・やめろって言ったよね。」

弓なりの眉を器用に片方はね上げ目を細める。

「細かいこと気にしない!!じゃなんで読んでんの?」

響の隣で柚葉も小首を傾げている。

「―――・・・骨。」

ズルっという効果音と共に、響の頬杖が見事に崩れた。

「いや、正確に言えば骨格?うん。肉ついてるしね。」

明日の天気でも言うように、沙枝はスラスラと言葉を紡ぐ。

「生物室の模型さんじゃ駄目なの?」

「却下。つまんないじゃない、あんな人形。」

宙を彷徨わせていた視線をピタリと止めると、柚葉は納得したように瞳を輝かせた。

「相変わらず悪趣味やな。」

冬樹は、ノートパソコンを閉じながら苦虫を噛んだような表情をしてみせた。

「犯罪ハッカー・・・・に言われたくないわね。」

対する沙枝は上から目線よろしく鼻で笑ってみせる。
スイッチが入ったように額に青筋を浮かべる冬樹の頭を宥めるようにポンポン叩きながら響は軽く身を乗り出す。

「ってか皆つっこむとこ違うでしょ!!おかしいって。」

「あんた人のこと言えないでしょ。」

するどい沙枝のつっこみに、響以外の全員がうなずいた。

「でもま、あんたの骨格・・結構好きだけどね。」

ピタッと動きを止めた響の肩を叩きながらもう一声。

「早く骨んなっちゃえばいいのに。」

その一言は人一人黙らせるには十分であった。

「やっと静かになった。」

再び読書を始めていた蒼紫の声が静かに響いた。

「ボス、もしかして怒ってる?」

可愛らしく小首を傾げて蒼紫の表情を伺う。

「別に…いつものことでしょ。」

少しも表情を崩すことなく、蒼紫はあっさり否定する。
響は顔を青くさせて、わずかに汗をにじませた。

「あのー……その言葉はわたくしめに言ってるのでしょうか?」

蒼紫に視線を合わせることはできず、キョロキョロと彷徨わせながら控えめに言った。

「もちろん。」

とくに間をとることもなく、すっぱりと肯定する蒼紫。
響はというと、あまりにも衝撃が強すぎたのか、胸に手をあててすでに意識を飛ばしていた。

「ガ、ガラスのハートが……」

泡をふきそうな表情で、しぼるような声が零れた。

「どこがやねん。笑えんわ。」

とどめをさすように、冬樹がしめた。

「わぁ〜すごい響ちゃん真っ白。」

柚葉は、珍しい玩具を見つけた幼子のように微笑んだ。

「あーなんかもう、めちゃくちゃだね。」

沙枝は端麗な顔を歪めて溜め息をついた。

「まぁ、まぁ皆さん。響が壊れちゃいますよ?」

くすくすと苦笑する啓斗が三人を宥める。

「んなデリケートな生き物とちゃうやろ。ほっとけ。」

容赦ない攻撃を受ける響。

「再起不能?」

蒼紫はぽつりと言う。

「…のようですけど?」

眼鏡のアームを押し上げて啓斗が続ける。
無抵抗に無数の矢を受けた響だけが直立不動していた。


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