08 挑戦状
「ピヨ〜〜…」
哀れな捨て犬は俯き加減で廊下にたたずんでいる。
「あれ、もしかして例の転入生??」
少し上から降ってきた声に反応して、大希は顔をあげた。
「…もしかしてクラスの?」
「うん!転入生一人でしょ?うちのクラスって聞いてるけど。」
目の前には数人の男女。
どうやらクラスメイトらしい。
「や、やっと着いた〜〜!!朝から変な子・・・には会うし先生には捨てられるし」
「うん。なんかよくわからんけどお疲れ♪」
大希は目の前のクラスメイトたちの普通・・さに心の底から安堵した。
「やぁ〜でも、かぁ〜いぃ〜ねっ!!標的になんなきゃいいけど」
一人の女子生徒の言葉で再び訪れた緊迫した空気。
「ひょ…標的?!」
大希の頬が軽くひきつる。
「馬鹿!!聞かれたらどうすんだよっ!!」
男子生徒が声を潜めて、しかしはっきりと言う。
「ごめん!!」
口にした女生徒はといえば、口元を押さえて申し訳なさそうに苦笑している。
「えっと…」
大希は、とてつもなく嫌な予感に顔をますますひきつらせた。
「だ、大丈夫!!その人とは同じクラスじゃないし」
「…よくお迎えには来るけどな。」
「〜〜っ、うえっきしっ」
気の抜けたくしゃみに若干名の肩がぴくりと動いた。
「響ちゃん大丈夫?これ返すから。」
柚葉の申し出に首をふりつつも、彼女のくしゃみはまだ止まりそうにない。
「オヤジかお前は…」
視線はパソコンに注がれていても冬樹の十八番は健在である。
「――っうるはい」
「響ちゃん…薬……あげようか?」
小動物を連想させる黒目がちな双眸を、柔らかく細めて見上げてくる柚葉の背後にとんでもないオーラを垣間見て、響は冷たいものが背筋を伝っていくのを感じた。
「あぁ??なんじゃこりゃ…」
「松田優○?」
眉を寄せる冬樹と、間髪いれずにちゃちゃを入れる沙枝。
「たどれた?」
冬樹の傍らに歩み寄った蒼紫は、ノートパソコン覗き見る。
そして、ガラス細工のように繊細な双眸を僅かに細めた。
「ロック?」
「それも1つや2つやない…」
静かに画面を睨みつける冬樹の表情は、今までとは明らかに違う色を滲ませている。
「ふ〜ん…やってくれんじゃん」
沙枝は不敵な笑みを湛えて雑誌から冬樹のパソコンのディスプレイを覗き込む。
「何がなんでも外部・・には漏らせない情報…ですか。」
「……ボス?」
「暴きがいがあるな。」
蒼紫の静かな声音に、一同は苦笑を浮かべざるをえなかった。