不変な繋がり


07 開始






「じゃ、クラスの場所わかったな。よし、行け。」

「先生ひどい…」

相変わらずあしらわれ続ける生徒と、職員室から追い出そうと試みる教師。
そして、大希の抵抗も空しく無情にもドアは閉められた。

「!!ほんとに、閉め出した…」

こうしてこの話の主人公とも言うべき少年は、かのような冷たい扱いで1人ポツンと残されたのだった。






「さ、じゃあそろそろ探ろうか?」

ところ変わって彼らの一室。
 蒼紫の穏やかなテノールが響くと、和やかだった雰囲気が見事に固まった。

「なんじゃ?」

全員が蒼紫に視線をそそぐ中、一番最初に口を開いたのは、冬樹だった。

「ふーん、…冬樹、出番みたいだよ?」

オレンジ色の髪がふわりと揺れて、悪戯めいた表情をつくる。
フフッと笑う沙枝に冬樹は、思い切り顔をしかめてやった。

「やめなさい、ヒメ」

響がすかさずボカッと頭を殴る。

「何すんじゃボケ!!!!」

すぐにキレかかる様を、啓斗はニコニコと笑って見ていた。

「啓斗、止めないの??」

柚葉が可愛らしく小首を傾げてたずねる。

「そうですね…まぁ僕が言っても二人とも聞いてくれませんし…」

クスクスと上品な笑みをこぼす啓斗に、手をポンッと打って納得する柚葉。
二人のあまりにものほほんとした空気は、この場から逸脱していて、蒼紫と沙枝はただ呆れるしかなかった。

「冬樹、響、先に進まないんだけど?」

蒼紫の声にぴくりと反応して、ようやく二人の熱い戦いは終わった。

「鶴の一声みたい」

そう言ってケラケラと沙枝が笑うと、冬樹が素早くにらみをきかせる。

「冬樹…」

深い溜め息とともに蒼紫の制止がかかる。

「どこにいくんじゃ?」

そう言うと、どこからともなく薄型のノートパソコンが取り出された。

「さっすがヒメだね。頭だけはピカイチ☆」

「黙ってろ、暴力変態女がッ!!!」

悪態つくのも忘れずに、冬樹は自身愛用のパソコンをたちあげた。
内部が起動する音が室内に長く響く。

「警視庁長官室?次長?長官官房?組織犯罪対策部?外事情報部?情報通信局?国家公安委員会?科学警察研究所?薬物銃器対策課?それとも地方か?パスワードもIDもコードも一通りあるから何処でもええ。何処?」

「怖〜ぁ。サイバーフォースはお構いなしですか。」

冬樹の口から長々と紡がれた恐ろしい台詞に沙枝が雑誌を読みながらため息混じりに言う。

「??さいばーふぉーす?」

沙枝の言葉を、響は明らかに発音を間違えて繰り返して言う。
彼女の頭上には間違えなくクエスチョンマークが飛び交っていることであろう。

「警察庁のサイバーテロ対策システムですよ。常に悪質なハッキングの危険性が付きまとうネットワーク社会を守る為に、全国の警察を統括している警察庁の技術対策課内に設置された特別チームです。」

首を傾げている響に助け舟を出したのはもちろん啓斗であった。
沙枝と冬樹は呆れきった冷たい眼差しで響を凝視していた。
そんな状況にもへこたれず(とういか単に気が付いていない)啓斗の簡単な説明に響は感心したように頷いていた。

「サイバーテロは、1・2人の技術者だけで可能だし、金もいらないし世界中どんな所からでも仕掛けられる。」

相変わらずその視線は、手に納められている本の活字に向けられているが、理解のしやすいように響に向かって言葉を放つ。

「へぇ〜初めて聞いた。」

響は少しばかり興奮したようで、きらきらと目を輝かせていた。
元より、響は体力派なのでこういった専門的分野の知識は皆無なのである。

「まぁ、まだ色々と問題点は残されていますしね。」

「・・・て、言うと?」

響が興味津々といった顔つきで、啓斗へと聞く。
子供のような無邪気な顔に、啓斗は苦笑して言葉を続けた。

「IDSにも泣き所がありまして、過敏すぎて誤アクセスにまで反応してしまうんですよ。」

「結局は、人間が必要となってくるわけだ。」

最後を締めくくったのは蒼紫の独り言にも似た小さな呟き声だった。

「馬鹿に知識与えなくてもいいじゃろ。どーせ忘れるんじゃから。」

パソコン画面に浮かび上がる理解しがたい英文の羅列を見ながら、冬樹は鼻で笑って冷たく言い捨てた。

「ひどいやっ!!!姫のバーカ!!!!」

「・・・で、何処に行って何を探すんじゃ?」

響の罵声には一切触れず、100%綺麗に無視して蒼紫に本来の目的を問う。
問われた蒼紫は、読んでいる本から目を離すことなく口を開いた。

「警視庁でも法務省でもないよ。探るのは…この学校――。このソースたどれるよね?」

そう言ってやっと本から目を離して冬樹に差し出したのは、先程のプリントだった。 右端に『島咲大希資料』と記載されている。

「学校かい・・・何じゃ面白くない・・・」

「そうでもないと思いますよ?ここの初代校長はなんと言っても警視庁警視総監で、尋常じゃない程の知識と技術をお持ちだったと聞いてますからね・・・。セキュリティも中々手ごたえあると思いますよ。」

啓斗ががっかりといった冬樹に気力を出すように言う。

「おもしろくなりそうだよね〜♪」

まるで人事のように、どこまでものんきな調子で沙枝は言った。

「5分??」

柚葉が尋ねると、冬樹の整った唇が綺麗な弧を描く。
どこか大人びた、艶めいた表情に、響はガッツポーズを密かにひとつ。

「3分でいけるだろ??天才ハッカー」

蒼紫が、本を閉じて冬樹を見た。

「当然じゃ。」

ニヤッと笑うと、即座に口を噤んで指ばかりがキーボードの上を走り始めた。
画面には黒の背景に黄緑色の解読不能な文字たちが羅列する。

「ねぇねぇ、ボスは何読んでたの?」

窓の近くに置かれた本を指差して、柚葉は小さく首を傾げた。

「ん?・・・犯罪心理学の本・・・・・・かな。」

やけに曖昧にするのが蒼紫らしいと、一同は思うのであった。


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