05 犯罪研究部
「むー、職員室は何処だ!?」
少年は未だ迷子中であった。
さっき出逢った少女と別れてやけに広い中庭のような所を一通り彷徨った後、通路が四方に分かれていることにより今の状態になっている。
「僕は今日ついてないみたいだからなぁ…」
俯きながら肩を落とす少年。
「島咲?」
不意に名前を呼ばれて振り向けば、そこには初老の男性が一人。
「あっ!――…っ先生!!!」
少年は姿を確認するや否や、その男に縋りついた。
捨て犬のような表情をする大希を見て、本校勤務6年目の学年主任は大仰な溜め息をこぼした。
「お前、今何時だと思ってるんだ。遅刻だぞ!?ったく年寄りをこき使いやがって。」
恨みがましげに毒づく教師とは、編入試験のときにも会っている。
「だって、この学校広いじゃないですかぁ〜!!職員室何処かわからなかっ…」
「あ゛ぁ〜そうかそうか。早く行くぞ。」
大希の言葉を遮って教師は無表情で言う。
そして、大希の言い訳などまるで興味がないというように初老教師は歩き出した。
「ひどっっ!!あっ、待ってくださいよぉぉぉ!!!!」
「うるさいっ。俺は動物嫌いなんだよ。」
眉間に皺を寄せて、駆け寄ってくる大希を追い払うように手を振る。
「意味わかんないですよっ!!」
涙目で縋りつくと、教師は一瞥くれてからまたもため息をこぼした。
「あぁ、そうだコレに目ぇ通しとけ。」
そう言われて大希に手渡されたのはA4の用紙。
大希は小首を傾げたあと、手の中にある1枚の紙をのぞいた。
「部活動一覧表?」
「最初に言っておくが、帰宅部はない。原則としていずれかの部に所属すること。」
教師の口から出たその規則に、大希は口をぽかんと開けて目を丸くした。
「定時制なのにっっ!?」
「うるさいっ。ギャンギャン騒ぐな!!」
教師はより眉間の縦皺を増やして大希を一喝する。
一喝されてシュンっとなった大希は仕方なく用紙に目を通す。
そして、綺麗に並んだゴシック体の文字の中のある部活動名に目を止めた。
「――…ん?犯…罪…研究部……?」
声に出した瞬間、前を歩いていた教師の肩がぴくりと動いた。
それだけに留まらず、周囲にいた生徒たちが一斉に動きを止めて大希を凝視している。
皆一様に顔を引きずらせて……。
「――…島咲。親切で教えてやる。よーく聞け。」
「?はい…。」
教師は振り返ると大きく息を吐き出して一言。
「平和な学園生活を送りたければ奴ら
には関わるな。」
教師の顔は苦々しく、周囲は張り詰めている。
「そ…そんなに危ないんですか…?」
「……。」
教師はそれ以上は語らずスタスタと歩き出した。
そんな様子を見て、大希は少し考えた。
「…っ、まさか…」
フラッシュバックするのはつい先ほどの出来事――。
「はい。割れなくて良かったね♪」
歩み寄って空きビンを手渡すと、少女は目を柔らかく細めて微笑んだので大希もつられて満面の笑みを浮かべた。
「ところでそれ何に使うの?そっちのビンには何か入ってるみたいだけど。」
大希の視線の先にあるビンには透明の一見して水のようなものが入っている。
「水???」
「ホルマリン。」
「いや…、まさかだよ。うん。」
首を振り、考えを打ち消すと少年は走り出した。