01 可愛い転入生
「おはようございます。」
柔らかい物腰が滲み出るような声が部屋に響いた。
短い黒髪に同色の優しそうに細められた瞳、細いフレームで彩られた眼鏡が品の良さそうな顔によく似合う。
「あ、おはよー。啓斗」
のんびりとした口調で甘いテノール声が響いた。耳朶をほんのり震わせる。
しなやかな黒髪に、前髪の一房だけ色づいた鮮やかな蒼色。
鼻筋の通った秀麗な顔だが、その表情が揺れることはない。
「来んのが遅いんじゃ。」
まだ少し幼さの残る声、啓斗は声の主を見る。
色素の薄い胡桃色をした髪に、くりっと大きな瞳に長い睫毛。
色の白い肌にバランスよく配置された各パーツが少年を綺麗に飾っている。
「おはようございます、冬樹」
不機嫌そうな顔をしている少年にニコっと笑って挨拶をする。
しかし、少女のように華奢な造りをした冬樹は更に顔をしかめた。
「何がおはようございますじゃ。ド阿呆が。こっちは寒い中わざわざ学校なんぞに来てやっとんのに、人を待たせるな。」
ノンブレスで言葉を紡いで広島弁のマシンガントークで啓斗を罵倒する。
「大体、「冬樹」
一度息継ぎをして更に続けようとした冬樹のマシンガントークを無表情な少年が遮る。
「なんじゃ、蒼紫」
「ん?遅れてきたってことは…持ってきたんだろ?」
蒼紫はわずかに瞳を細める。これは、蒼紫が何かを楽しんでいるときの顔だ。
その様子を見て冬樹は口を噤んだ。
「流石です」
先ほどまで冬樹のマシンガントークの的だった啓斗が感心したように声を上げ、ニコニコ笑って拍手する。
「で?さっさと話しちゃってよ」
蒼紫がちらりと啓斗を見上げた。
啓斗は笑ってその視線を受け取ると、鞄から何枚かのプリントを取り出した。
「可愛い転入生ですよ。」
啓斗は女子を一瞬で虜にしそうな程の極上の笑みを浮かべて机にプリントをのせた。
1番上のプリントに写真が載っている。
猫のようにアーモンドの形をした黒い瞳に同色の少しクセのある艶やかな髪、あどけなさの残る幼い顔立ちをしていて誰にでも可愛がられそうな愛嬌のある笑みを浮かべていた。
「んー。まぁ、うちの姫に比べたら愛嬌があるって点だけでも可愛いかな?」
蒼紫は至極真面目に答えた。
「誰が姫やねん。」
冬樹はムスッとした顔で蒼紫を睨むが当然効くはずがなかった。
「で?この子、何者?」
蒼紫が写真の載ったプリントを摘まみ、椅子に座って聞く。
「名前は島咲
大希くん。冬樹と同じ16歳で、明日からうちに通うみたいですよ。」
「んなことはわざわざ啓斗の口から聞かんでもコレ読めば分かるんじゃ。相変わらず遠まわしに物を言う奴やな。回りくどい。何者かて聞いてるんじゃから余計な事言わんとさっさと答えろや。時間の無駄じゃ。ド阿呆が。」
息継ぎなく冬樹は言う。
啓斗はそれを聞きながら苦笑していた。
((相変わらず口の悪い……))
啓斗と蒼紫は心の中で呟くのだった。
「容赦ないね。冬樹は…」
蒼紫が言うと、
「当たり前じゃ。」
と、眉間に皺を寄せた冬樹が即座に言う。
「本当、口を開かなければ綺麗な女の子で通るんですけどね。」
「うっさいわ。沈めるぞ。」
ほのぼのと言う啓斗を冬樹は低い声で一刀両断した。
「で?ホント何者なのさ…」
「特例の転入生だったので少し調べてみたんです。十中八九当たりだとは思いますが…」
啓斗は少し間をおいて更に続けた。
「ペアリング」
と。